楽天に学ぶ「伝わりにくい」商品・サービスのPR術
美味しい食べ物や甘く薫る花、目に鮮やかな色彩の服など、私たちはいろいろな商品・サービスに接しながら生活しています。
目や耳、舌など五感が刺激を受けるものは、価値を自分なりに判断できますが、そうでないもの、例えば形のないものや目に見えないものは、価値を正しく知ることが難しいといえます。
今回は一例として、実物が手元にない状態で販売する通信販売を取り上げます。
通信販売大手「楽天市場」に出店するショップが実際に行っている、価値を伝えるPR術を見てみましょう。
■文字、動画…「伝わらない」は情報がフォロー
実物が手元にない商品や使用感がわからないサービスを購入するのは、「実物を見ていないが、今すぐ必要」という方がいて、相手を信用できるだけの情報があるからです。
たとえば商品・サービスの画像、説明が書かれた文章、特徴を表わしたキャッチフレーズなどの情報があれば、これをもとに購入元が信頼できるかを判断します。
これを利用し、実物の画像や実際の使用風景を映した動画を利用して、購入者に期待感や安心感を持たせて購入させるという手法も、通信販売では多く見られます。
一例を挙げると、和歌山県には、「紀州梅」を通信販売するメーカーがいくつかあります。
産地と昔ながらの製法を掲げるショップが複数あれば、まずは価格競争が起こります。
さらに、価格差がわずかであれば、紀州梅の美味しそうな写真、生産者の顔写真・コメントなどの印象から、ショップ選びをする方もいるでしょう。
また「梅が苦手な方にも人気!」というフレーズが心に響き、購入動機につながるかも知れません。
つまり、たとえ実物がなくても、文字や動画が実物をフォローできれば、購入者は現れるものなのです。
■ステマ問題後も信用される「クチコミ情報」
もう一つ、有効なPR術として「クチコミ情報」があります。
これは第三者による「思わず口にしたくなる情報」ですが、近年はSNSの利用者が増えたことで、手軽に投稿し、拡散も可能になりました。
メーカーや販売元のような当事者による宣伝文句とは異なり、信用度は高いといえます。
しかし、数年前には消費者に気づかれないよう宣伝する「ステルスマーケティング(ステマ)」が流行。
飲食店が、レビューサイトの運営側にお金を支払って、レビューやクチコミ情報を操作するといった事件が表面化しました。
これによって、美辞麗句を並べたクチコミ情報は、ステマの一つと認識され、信用度は一時的に地に落ちたのです。
ただ、クチコミ情報は数が多くなるほど、ステマ目的の情報は駆逐され、精度が高まります。
ステマが社会問題となったことを機に、クチコミ情報も全体的に質が向上し、信用度も回復を見せているといえます。
購入者にとっては以前よりも選択肢が広がり、価値を伝える環境も良くなったといえるでしょう。
■「購入者のニーズを捉えて、価値を伝える」のが主流に
京都の日用品メーカーは、かつて楽天市場でランキング上位をキープし、全社売上の大部分を通信販売で占めていました。
しかし、経営者は「団塊世代が一度に定年を迎える」との社会変化を先読みし、販売チャンネルを拡大。
従来からの百貨店販売、実店舗での販売に再び注力するようになりました。
この先読みは的中し、このメーカーは過去最高売上を毎年更新しています。
この例では「購入者のニーズを捉えて、価値の伝え方を変える」ことが成功の要因といえます。
退職金という購入しやすいタイミングに、質感の良い日用品に触れる機会を増やす販売戦略で、商品の価値を確実に伝えたのです。
こうした相手の視点へのシフトこそ、現代の主流であり、成功のカギといえるでしょう。